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お会いするにつれ徐々に技術力がある会社だなと分かりました。~採血における患者難易度を指標化

 
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医療法人神甲会 隈病院 理事長 隈夏樹 様
インタビュー スクラムサイン 北村 友和
 
改めて隈病院のことをお伺いさせてください。
 
この隈病院は別府にある日本最初の甲状腺専門病院の副院長だった私の祖父が、独立して神戸に開院し、2022年で90周年になります。
今回はAIへの取り組みがテーマですが、まずはITへの取り組みに関してご説明します。1970年代後半にWang Laboratories社の汎用機を導入したのが最初のITへの取り組みです。
それを契機にしてデータベースや社内LAN、インターネットなど他の病院に先駆ける形で取り組んできました。
今の形になり始めたのは2005年で、古く、手狭になった病院を増改築すると同時に電子カルテの導入に至りました。当時、まだまだ紙カルテ全盛の時代で、当院のような小規模な病院で、高価な電子カルテシステムを導入するのは非常珍しいと言えますが、当時病院を経営していた私の父は、他の病院との差別化を図るため、蓄積したデータを活用し患者さんに支持される病院づくりをテーマに取り組む方針でした。
私は、それまで隈病院をサポートはしていていましたが別の業界に身を置いていて、1999年に病院経営に参画する運びになりました。私自身は医師ではなくITや広告系の仕事をしていましたが、広告やIT、エンタテイメントなどで私が経験してきた仕事の知見を活かしました。
医療はサービス業で、来院された患者さんを満足させなければならないという理念が隈病院に根付いていきました。私が隈病院に入って変化したことは、ITに明るい私が決定権者になり、ITが病院になぜ必要かを院内の誰にでも説明できることで、LANであったり色々なものの導入が他院より早く行えたことです。医療機関は通常医療には投資しますが、ITに対する投資は効果が見えにくいため積極的では無い場合も多いように思います。隈病院ではそういった声はあまり聞かないと思います。
隈病院はデータ環境が整っているなと感じております。その背景や、機械学習に取り組んでみようと思われたきっかけなど教えてください。
 
そうですね、2005年に電子カルテを導入した際、電子カルテのデータを活用していくということを決断して、データウェアハウスを構築して実現できたことがあります。当院の3代目院長である宮内昭は、80年代に「通常癌は発見したら直ちに切除するが、甲状腺癌の場合1センチ以下の癌は手術せずに経過観察を行っても多くの場合直ちに命の危険に繋がるものではないのではないか?」という仮説を立てて研究を始め、現在ではその仮説が事実であり、小さいうちにすぐ手術をするのでは無く経過観察の結果サイズが大きくなった場合のみ手術を行った方が患者のメリットが大きいということから、現在では次第に甲状腺手術のスタンダードとして世界に広まりつつあります。そのような80年代からの膨大な検証結果をデータをまとめて論文発表するといったことができるようになりました。ですので、AIへの取り組みについても、「面白いやってみよう」という素地が元々あったわけです。スクラムサインさんと知りあう数年前から実はAIっぽいことは行なっていました。たとえば、大手のAI会社と共同で院内の防犯カメラ映像を解析し、異常検知ができるかどうかなどの研究を行なっていました。
北村)弊社の第一印象はいかがでしたでしょうか?
当院のAIを推進している担当者が、こういった取り組みを進めていくうちに数学がやはり大切だと思い、スクラムサインさんが主催するコミュニティー「Math & Coding」に参加していたことがご縁で、お付き合いがスタートしました。
最初は少し不安でしたが、お会いするにつれ徐々に技術力がある会社だなと分かりました。
北村)ありがとうございます。事例を紹介したいのでそのお話をお伺いしたいと思います。最初に採血業務の指標化に取り組ませていただきました。その課題について、その背景を改めて教えてください。
当院は小さな規模の割に、採血の件数は2018年で年間11万人近くと大きな病院並みに実施しております。
実は一般的に採血では合併症が一定の確率で起こってしまいます。
そうなると、その対応で負担が大きくなり当院にとっては経営のリスクにつながります。ですので、できるだけ採血における合併症のリスク減らしていくことが重要だと考えました。そういった経緯で、当時開発されたばかりであまり知られていなかった「採血業務 指標化システム」を導入し、患者の難易度に応じてスタッフの熟練度から採血を行うマッチングを行なうようになりました。しかしながら、それは人間がルールベースで難易度を設定するもので、まだまだ改善の余地がありました。
そういった背景でスクラムサインさんに、採血業務の難易度の指標化の部分を課題としてご依頼しました。スクラムサインさんは色々と試行錯誤しながらこの課題にマッチする解決策を探していただき、最終的にピッチャーの力量をIRTと呼ばれるモデルで推定する野球に関する学術論文からヒントを得て、採血業務における患者の難易度を推定するアルゴリズムを作成されていったのですが、最初にその論文の話を聞いた時に、なるほど野球のピッチャーとバッターの関係と患者と看護師の関係は共通する部分があると、感動したのを覚えています。
実際に、技量のあるベテランスタッフは難易度の高い患者さんの採血をよく行うので採血成功率だけから見るとそれほど高くないのですが、今回のモデリングの解析結果を見ると成功率だけでは捉えられないものが、捉えられており新たな気づきがありました。
(取り組みの詳細については第二回メディカルAI学会にて口頭発表)
北村)弊社の貴院での評価はいかがでしょうか?
何よりスクラムサインさんにご依頼するようになってから、現場のスタッフの意識が高くなり有機的なつながりが生み出されるようになったと感じます。例えば刺し直しを減らすためにスタッフから翼状針を使用できるようにしたいなどの提案を採用するなど、病院として真剣に取り組んでいることが現場のスタッフに伝わり相乗効果があったのではと考えています。結果として、侵襲による合併症などへの対応が激減したことは、当院としては良かったことです。
北村)弊社に期待されていることはどのようなことでしょうか?
スクラムサインさんに依頼する前にある大手AI会社と共同研究していたことがあったのですが、その会社の規模が大きくなるにつれ離れていってしまうことがありました。病院にはまだまだ多くの課題があるので、スクラムサインさんとは今後もAIを活用した仕事を一緒に取り組んでいきたいです。
北村)弊社は「問いに向き合い学びあう。」を会社のスローガンにし、単にソリューションを提供するだけでなく、課題を解決していくプロセスの中でお客様とともに学ぶことを大切にしていこうと思っております。
まさにそんな感じがしますね。
病院内は、電子カルテの解析や精度の高い待ち時間予測など、まだまだAIで取り組むと良い結果が期待できそうな課題がたくさんあります。頑張ってもらいたいと思います。