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数学と機械学習コミュニティを運営する開発会社が考える現在と未来の開発のあり方 3/3

 
コミュニティ運営で大切にしていること
ここまで読んでくださった方の中には、技術コミュニティをはじめてみたいと思われた方がいるかもしれません。私がコミュニティを運営する中で大切にしているポイントを3つにまとめました。
  1. 安心して正直な感想や率直な意見が出せる場にすること。
  1. 私自身も含めメンバーが自分の成長を実感できていること。
  1. 運営がその模範となること。
1は、最近では心理的安全性と呼ばれるものです。普段は専門家や先生の役割の方も、コミュニティでは安心してわからないことを「わからない。」と表明できます。
2の状態が実現できると、コミュニティのコアメンバーが育っていきます。
3については、言わずもがなですが、運営メンバーのあり方がグループに一番影響を与えます。
コミュニティ運営の3つのポイントを実現していくために、私はグループプロセスに着目し、振り返りをしています。一般的にグループの中で話し合いをする場合は、メンバーの誰かが何か思っていても、実際には話されないことが多いのですが、グループプロセス(*12)は、グループで話されている内容より、どちらかというと見えない部分にフォーカスをあてていく考え方です。例えば、勉強会が終わってからの「ふりかえり」でAさんが発言した時の他のメンバーがどのように感じていたのか?をフィードバックし合います。そうすることで普段なかなか気づかない、グループのメンバーの心の中で実際に起こっていることにフォーカスがあたりグループをよく知るためのよい手がかりになります。グループの状態がよくみえるようになると、運営者がどのように関わればよいかを試行錯誤し試していくことができます。
これからコミュニティに関わっていかれる方で、自分の持ち味(専門性)を活かすことと、他者とうまく関わることを両立されたい方は、そういったことが学べるファシリテーションなどを学ぶ研修に参加されることをおすすめします。
技術コミュニティを中心にすえる会社
さて、Math & Codingは技術コミュニティでそこから収益をほとんど生んでいません。なので、お取引先の担当者の方から、北村さんは忙しいのにしっかり勉強会も開かれていて凄いですねと言われます。実は技術コミュニティは会社のメインの事業のようなつもりで取り組んでいます。
収益をあげないので本業と位置付けるのは一見おかしな話なのですが、     Math & Codingのコミュニティを運営していくうちに、私たちに蓄積されている価値は下記の4つであると認識しています。いずれも当社の事業を推進する上でどれも欠かせないものとなっています。
1: 多様な専門人材との関係性が広がる
2: 対話による学びの場づくりのノウハウが蓄積されていく
3: 機械学習領域での専門性が磨かれていく
4: 共創パートナーとしてクライアントと関係性を構築する文化ができあがっていく
下に図としてまとめてみました。
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(図 技術コミュニティを中心にした会社の価値提供)
いずれの価値も直接的に収益を生み出していないので、「本業」とは別にシステム会社としてクライアントからお仕事をいただき、成果に対して対価をいただくわけですが、当社における技術コミュニティは、弊社のあり方や仕事のプロセスに深く影響を与えておりなくてはならないものといえます。例えばソフトウェアの世界でオープンソースをエンタープライズ向けにサポートすることに近いものと考えています。 (*13)
DXにおける課題、技術コミュニティの可能性
具体例として、近年のトレンドであるDX(デジタルトランスフォーメーション)をテーマに考えてみたいと思います。
DXはすでに多くの企業で取り組まれているテーマとなりますが、そのねらいとして、デジタルにシフトしつつある顧客体験で他社に先駆けて革新的なサービスを生み出し、競争優位を築きたいという意図があると思います。私たちが専門とするAI・機械学習領域はその中でもデータから価値を生み出すコアとなる要素として、様々な側面から活用を試みられています。そのため当社でもDX関連の相談を受けることがありますが、担当の方のお話をお伺いしてみると、部署やプロジェクトが先行して設立されて「何をやって良いかわからないが、上司からは具体的な成果が求められている。」というご相談が本当に多いです。
DXにおける現状と課題をまとめた資料として、神戸新聞社様と有限責任監査法人トーマツ様が運営しているアンカー神戸というインキュベーション施設にて2022年2月4日に主に企業の新規事業担当の方むけに「DXと機械学習」というテーマでお話をさせて頂いた際にまとめた図が下記となります。
 
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(図 ありたい姿と現状 )
 
このような現状に対して技術コミュニティのあり方がどのように貢献できるかをまとめてみたいと思います。
まず図にある「よくあるDXの現状」は再掲すると下記になりますが、
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3つの分断が原因で起こっていると考えられます。
その3つの分断は、下記の図のようにとらえています。
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それぞれの分断を乗り越え、統合していくために、技術コミュニティでおこなわれているプラクティスや思想が大切になっていくのではないかと考えています。それぞれ整理してみます。
1,方向性と成果の分断
=>コミュニティの学び
顧客から本当は何が求められているのかという「素朴な問い」に共鳴するメンバーを集める。
深い学びの場を設計する。
社内勉強会やプロジェクトにより次世代を担う人材を育てる。
2,企画と真の顧客価値分断
=>仕様ありきではなく、オープンソースのような適応的な開発。
アジャイル開発を取り入れていく。
3,利害の分断
=>コミュニティ型組織との共創をはぐくむ契約戦略を柔軟に設計。
開発は仕様にもとづく工数換算ではなく月額制のモデルが候補となる。
成果をあげていくことを目標として継続開発を前提とするので、学びあうことと成果をだしていくことが促進される。
コミュニティ型の組織なので多様な専門人材を機動的にアサインできる。
このように考えてみるとDXのような取り組みにおいて、技術コミュニティのプラクティスやあり方が、DXにおいて意義のある活動となっていくためのヒントになりそうです。
全体をまとめてみます。
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((図 課題に対するコミュニティ的な学びと開発のプラクティスおよび契約モデル)
それぞれの分断は密接に関連しており、プラクティスについても同様です。
当社がAI・機械学習ソフトウェアを月額固定料金のアジャイル開発形式(*14)で提供するスタイルで行なっているのは、純粋にコミュニティの価値観を実際の開発案件で活かしていけるにはどうすればよいだろうかと模索した結果、行きついたものです。特に機械学習の探索的な取り組みは、見えない部分が多く状況に応じて臨機応変に対応することが求められると同時に、専門領域がデータベース、分散計算、アルゴリズム、アプリケーションなど多岐に渡ります。ですので、事前に仕様を決めて人をアサインするような従来的のやり方ですすめていくと、進めながら見えてきた課題や機会をとらえられず、結果としてプロジェクトの成果が小さくなってしまいます。
現段階では、現場の担当者からは共感いただき、是非一緒にやらせて欲しいと言っていただいても上層部の方で理解がえられず、「仕様」を決めてからでないと予算がおりないケースや学びより、すでに用意された「ソリューション」を求められることが多く、頓挫するケースが多いのが現状です。またこのようなコミュニティ的な開発スタイルは、まだ取り組みが始まったばかりで、企業の上層部の方に対して認知されていないのも要因です。今後は私たちの活動を通じて実績をつくっていくことにより、時間をかけてゆっくりと広がっていけばよいなと思っています。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
 
(*13)オーブンソースのビジネスモデル サービスサポートモデル
wikipedia
(*14)アジャイル開発モデル
wikipedia
 
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